Dear My Family


雪の降る、寒い寒い夜のこと。
サンタクロースの衣装に身を包んだ男が、一軒の家の前に立っていた。
その男の足元には、一匹のネコと大きな白い袋がある。袋の中には、何か、四角いものが入っているようだ。
「ここが、最後の一軒ですね。」
傍らのネコが言った。
喋るネコというのは、世の中そうそういるものではない。
しかし、彼は歴とした獣人である。喋るのは当たり前だ。
「そうだな。」
男はそう呟くと、目の前の家を見上げた。
さほど大きいとはいえない、二階建ての何処にでもあるような家。
しかし、男はその家を見て、とても楽しげな笑みを浮かべるのだ。
「…最後に相応しい家、だな。」
「きっと、さぞかし驚くことでしょうね。」
くくっ、という小さな笑い声が、ネコの口から洩れた。
男も、目を丸くする妻と息子を想像して、思わず大声で笑ってしまいそうになった。
「さて、玄関で長居は無用だ。ゼオ、そろそろ入ろうか。」
「そうですね、父上。」
男は白い袋を持つと、そっとドアノブに手をかけた。

   ◇     ◇     ◇

ことの発端は、ゼオとのこんなやりとりからだった。
「今年のクリスマスは、家族を驚かせてみてはどうでしょうか?」
「驚かせる?」
「はい。例えば、こっそりクリスマスプレゼントを用意するというのは、如何ですか。」
相槌を打ちながら、ダハーカは考え深げにゼオの話に耳を傾けている。
「そしてそのプレゼントを、いきなり渡すのですよ。
サンタクロースの格好をしてみる、というのもいいかもしれません。」
「あぁ、それはなかなかいいかもしれない。
でもそれなら、フェニックス達にも、プレゼントを渡しに行こう。」
それを聞いて、珍しくゼオが驚いたような、困惑したような顔をする。
何か、きっと父上には父上なりの考えがあるのだろう。ゼオはそう思った。
でも、ゼオは知っている。ダハーカの結婚を他の聖獣たちがよく思っていないことを。
そして、結婚してからまだ一度も、ダハーカが他の聖獣とは会っていないことも。
確かに、他の聖獣に何を言われても、父上はそれを全く気にしていないように見える。平然としているように見える。
でも、何も感じていないわけではないだろう。
他の聖獣たちから言われたことを。使命のことを。
悶々と考え続けるダハーカの姿を、ゼオはよく覚えていた。
「うかない顔をして、どうしたんだい。」
「い、いえ。なにも。」
他の聖獣に会いに行くのは止めた方がいいのでは。と、言おうとも思ったが、止めた。
ダハーカが言って聞くような人ではないということは、ゼオもよく承知していた。
「きっと、驚くだろうな。」
ダハーカは穏やかな笑みを顔に浮かべた。
その目が何処を見詰めているのか、ゼオにはよくわからなかった。


――結局、どの聖獣にも、あまり歓迎されなかった。むしろ、拒まれているようにさえ見えた。
でも、家族や人間のこと、それに自分の考えを彼らに伝えた父上の顔は、とても満足しているように見えた。

   ◇     ◇     ◇

パンパン、パン!
ドアを開けた途端、クラッカーの音が鳴り響いた。
ダハーカはドアノブを持ったまま、ポカンと口を開けて、その場に硬直している。
あまりにも間の抜けた顔をしていたのだろう。あははははという笑い声が上がる。
隣ではゼオも、控えめに笑っている。
おまえ、知っていたな。と、ダハーカがゼオに目配せする。
しかしゼオは、我関せずという顔で家の中に上がりこむと、クリスマスツリーの下で丸くなった。
「あなた、驚いた?」
可愛らしい顔の女性が、ダハーカにイタズラっぽく微笑みかける。
「あ、ああ。驚いたよ。」
「ふふふ。まだ、もう一つあるのよ。こっちに来て。」
言われた通り、ダハーカは彼女とアシルの元へ行く。彼女の見詰める先、そこには、一つのケーキがあった。
丸い形の、少し小ぶりなクリスマスケーキ。
点々と、不規則にイチゴが置かれていて、蝋燭の位置もバラバラだ。側面には、誰かがクリームを指ですくった跡がある。
「どうかしら、私とアシルと2人で作ったの。」
少し照れたように彼女が笑う。その隣では、「すごいでしょっ!」と、小さなアシルが自慢気に言っている。
「うん。とても美味しそうだ。でも、いつの間にケーキを?」
「あなたが出かけている間に。」
あぁ、なるほど。と、ダハーカはやっと合点がいった。
2人がケーキやクラッカーを用意して、ダハーカを驚かそうとしていたのを、ゼオは知っていた。
それが気づかれないないように、ダハーカを家から引き離したかったのだろう。
「あはは。私は、驚かされてばかりだな。」
では、こんどは。と言って、ダハーカは白い袋の中から、大きなプレゼントを取り出した。
彼女とアシルが目を丸くする。
「あなた、それは?」
「これはアシルに。メリークリスマス、アシル。」
ダハーカはにっこりと微笑むと、プレゼントをアシルの隣に置いた。
自分と同じくらいの大きさのプレゼントを、アシルは目をキラキラと輝かせて見詰めている。
はやくはやくとせがまれて、彼女がそのプレゼントを開けた。
プレゼントの中身は、とても大きなクマのぬいぐるみだった。
アシルの目がますます輝く。
「わー!ぱぱありがとう!!」
きゃあきゃあと騒ぎながら、アシルがぬいぐるみに抱きつく。ダハーカと彼女は愛おしそうに微笑んだ。
「アシル、嬉しそう。」
「そうだね。
…おっと、いけない。忘れるところだった。」
ダハーカがごそごそとポケットの中をあさる。彼女がそれを不思議そうな目で見る。
ダハーカはポケットから小さな箱を取り出した。それを、彼女に手渡す。
「開けてごらん。」
彼女はリボンを解いて、丁寧に包装紙を取ると、ゆっくりと箱を開けた。
中には、首飾りが入っていた。
首飾りには、鮮やかなオレンジ色の鳥の羽と、青みがかったいびつな形の宝石のような石がついている。
「まぁ、嬉しい!」
とても幸せそうに彼女は微笑んだ。その笑みを見て、ダハーカは満足そうに目を細めた。
「おいで。」
最後に、ダハーカはゼオを呼んだ。ツリーの下でしれっとしていたネコが、とてとてと歩いて家族の輪の中にやってくる。
ダハーカはゼオの前にプレゼントを置いた。
袋の中に入っていた、最後のプレゼント。丁度、人間の顔くらいの大きさだ。
そして、ゼオの耳元に顔を近づけると、
「メリークリスマス、ゼオ。たんとお食べ。」
ゼオにしか聞こえないくらいの小さな声で言った。
それから、ダハーカはプレゼントのリボンを解くと、箱を開けた。
中にはスルメイカが、たくさん、たくさん入っている。
ゼオは「にゃーん♪」といかにもネコらしい声で鳴いた。
「メリークリスマス、父上。ありがとうございます。」
こちらも同じくらい小さな声で言ってから、その箱に顔を突っ込んだ。
箱の中でくちゃくちゃと、スルメイカを食べる音がする。
「ぱぱー、はやくケーキたべようよー!」
もう待ちきれないといった様子でアシルが言う。その手はぎゅっと、ぬいぐるみの手を握っている。
彼女の胸元にも、先ほど渡したネックレスが光っている。
クリスマスプレゼントは、無事に気に入ってもらえたようだ。
「そうだな、食べようか。」
小さな一軒の家は、あたたかな笑顔で包まれていった。

                −fin−





あとがき的ななにか。

イラストの下絵が出来た時、この話を思いついて、勢いで書いてしまいました。
もともと、祐喜は二次創作な小説が苦手で、小6か中1の頃に
「二次創作で小説は書かない!」と誓っていたのですが…。
うっかり書いてしまいました。何故か、思い入れが強いので載せますが、
口調や性格や設定が違ってそうで心配です。に、似てたらいいなぁ…(笑)
ちなみに、時期的にはアシムくんが生まれる前で、アシルさんが4歳くらいの時だと思います。
まぁ、これ以上は、おそらく二次創作な小説は増えないでしょう。…多分。

そういえば、これが小説第一号ですね。わぉ!(←今気付いた


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