分かれ道がある。
真っ直ぐ前に進む道と、橋への近道へと続く右の道、そして港町へと続く左の道だ。
その分岐点に立つは3人の若人。
「よし、じゃあ行くか。」
1人が後ろの仲間を振り向き言うと、残る2人は重々しげにこくりと頷く。
そして3人は進み始めた……何故か3者三様の方向へ…
「って、ちょっと待ったぁ!!
いやいやいや、フツー目的地には近道で行くモンじゃねーの?」
「えー。真っ直ぐ真ん中の道行くのが王道でしょー!!」
「俺、海行きてぇ。」
……旅は、前途多難のようだ。
第一幕 旅の目次に出会いは必須
陽もやや暮れ始めた頃。王都を出て一番はじめの分かれ道。その手前で、2人の男が佇んでいた。
黒を基調とした装備に身を包み、腰に錆びた剣をさげた男と、それとは対照的な、アクセサリーをジャラジャラと身に着けた派手な服の男だ。
どちらとも通気性のよい薄着である。
「行こーぜ。」
「おう。」
そして2人は歩き始める。……何故か、それぞれ違う道を…
「ってなんでそっち行くよクロミヤ。さっき右の道行こうって決めたじゃん!」
派手な男が、あきれ声に眉間にシワと露骨に不満を表情に出して旅の相方に投げかける。
しかし、クロミヤと呼ばれた黒い装備の男は、ケロッとした顔で言い放つ。
「あっそ。」
「いやいや『あっそ』て。平気で約束破るかフツー。」
だが、やはりクロミヤはケロッとした態度で。
「破りますが。」
「破るなよ!」
ここまでケロッと言われてしまうと、逆にむしろすがすがしいくらいだ。
「ほら行きますよヘボヘボ盗賊。」
「いや、だから右の道に……」
この男に言葉は通用しない。ヘボヘボ盗賊と呼ばれた派手な服の男がなんと言おうが、当然の如く左の道を進み始めてしまう。
それに、ヘボヘボ盗賊と呼ばれた派手な服の男――ムーンサルトは、従うしか術はなかった。
ムーンサルトは、『月の涙<ルーナ・ラルモ>』という盗賊団の首領だ。
首領といっても、団員が一人もいないため、只今絶賛団員募集中なのだが。
それでも、この男を侮ることなかれ。彼一人だけで貴族から盗み出した金銀財宝の数はつゆ知れず。
しかも、その盗んだ宝を換金した金や依頼主からの報酬のほとんどを、貧しい人々に渡して歩くという義賊っぷり。
それに加えて格好が派手なこともあり、名実見た目ともに世間にも裏業界にも、知名度抜群の有名人なのだ。……これでも。
◇ ◇ ◇
日も暮れ始め、街道から少し外れた場所にそろそろテントでも張ろうかと話していた頃だった。
「行き倒れだ。」
「行き倒れですね。」
街道のど真ん中に、一人の少女が倒れていた。短く切った金髪に、小柄な体に白いワンピースを纏い、背には小さめのバックを背負っている。
旅人にしては、あまりに荷が少ない。王都に向かう途中で、連れとはぐれたのだろうか。
いや、だがここは赤茶けた大地の広がる、木もほとんど生えていない平野だ。はぐれたというのは、さすがにないだろう。となると…
「家出か、貴族の館から脱走した使用人かってトコかね。」
「どちらにせよ、こうして倒れてしまっては元も子もないですが……」
ムーンサルトとクロミヤは、何かを決意したかのように頷きあうと、そのまますたすたと少女の元へと歩み寄った。
少女を見下ろすような格好で、しかし2人はこの少女を助けるでもなく、何故か強く念じるように合掌をして。
「悪い、恨むなよ。」
「どうせ死に行く者には無用の長物。社会の常識ですよ。」
そして2人は少女を助け――ようともせず、なんと、少女のバッグをあさり始め……
「って、行き倒れは助けるのが社会の常識でしょーがぁあああああ!!!!」
地面に寝転がったまま、少女が渾身の力で怒りを声に乗せる。それに、ムーンサルトとクロミヤは気まずそうに顔を見合わせた。
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